ミャンマーと高田馬場(1)−アウン・アウン・ライン氏へのインタビュー−

どうしてニュースではミャンマーについて報道される機会が少ないのか、皆が興味を失ってしまってるのではないか。私が今回の取材を企画した動機として、このような焦燥感と危機感がありました。つまり、日本国内では2020年のパンデミック以降、自国でのコロナに関する報道が常にトピックの中心となり、他国で起きている紛争や人道危機などに対する関心が低下しているという懸念です。今年の二月にミャンマーで発生したクーデターや抗議運動に関しても、当初は注目されていましたが、その後は問題の長期化によって日本社会での関心が低下しているのが現状です。しかしながら、ミャンマーでは軍事政権による武力を伴う市民への激しい弾圧によって犠牲者が1000人を超えたと推計され、市民も武装したり少数民族の武装組織と連携して対抗し、各地で衝突と戦闘が続き、9月7日には民主派勢力が発足させた国民統一政府が軍事政権に対する戦闘開始を宣言するなど情勢は悪化の一途を辿っています。このような状況でありながら、コロナの脅威は当然ミャンマーでも猛威を振るっており、医療体制は崩壊し、死者も急増しています。それにも関わらず、他の紛争地域と同じく国内での関心は以前として高いとは言えません。もちろん国内でのコロナの感染状況が余談を許さない状態にあるという事情もありますが、国外の問題への関心が途切れることは決して望ましくありません。確かに私たちの生活に直結するのはコロナの話題ですが、ミャンマーの状況は私たちにとって決して遠い世界の話ではないと強調したいのです。同じアジアに位置する日本、特に高田馬場近辺には多くの在日ミャンマー人が長年に渡って生活しており、ミャンマー料理店も多くてリトル・ヤンゴンという別名すらあるほどです。しかし、その方々の来日した背景を辿ってみると政治的迫害からミャンマーを逃れた人も多く、その経緯からミャンマーの政治情勢に対する関心が非常に高いです。近年は技能実習生などの制度で来日する人も増加してますし、早稲田大学にもミャンマー人留学生が在籍している(現に私にも知人がいる)など、ミャンマーという国は私たちにとって身近な存在であり、他人事ではないと感じてきました。そのような現状認識を会員も含めて共有してもらい、高田馬場・早稲田大学という雄弁会員の共通要素を活かし、地に根ざした視点を通してミャンマー問題に焦点を当て、参加会員の各々の興味から質問内容を考えて取材し、社会に公表する、この過程を重視して取材を実施しました。「本企画では高田馬場に店を置く2店舗のミャンマー料理店の店主に取材を行い、その内容を2回に分けて掲載いたします。

 1回目となる今回は早稲田通りに店を構える『油そば力』の店主アウン・アウン・ラインさんへのインタビューを公開します。雄弁会報道部の初企画ということで、未熟な面も多々あるかもしれませんが、是非とも一読して貰えると幸いです。

※このインタビューの内容は2021年8月4日当時のものです。

現在に至るまでの経緯

Q:日本にいらっしゃり今のお仕事につかれた経緯を教えてください

A:日本に来たのは1988年の民主化デモによりミャンマーの治安が悪くなったからです。アウン・サン・スー・チー氏が代表を務める団体(NLD)に所属していましたが選挙手伝いなどの政治活動を行っていたことを理由に病院で働いていた父が解雇されてしまいました。また、私自身も捕まるかもしれないという情報が伝わったことからミャンマーから出ることを決意しました。

Q:初めから日本にいらっしゃったのでしょうか。また、何故日本という国を選んだのでしょうか。

A:いえ、1996年に日本に来ましたがそれまではタイなどにいました。本来日本に来るのは難しかったのですが知り合いがいたことと機会に恵まれたことから来日しました。ミャンマーの情勢がなかなか変わらないので日本で2003年難民の手続きを行い2010年に認められ、その後移住手続きを行って今に至ります。

Q:日本の難民申請というのは難しいのですか。

A:そうですね。日本は島国ですし、いろいろと調べなければなりませんから。ただ事情は分かりますが私たちも私たちの事情で故郷に帰れませんので。最終的に認めてもらえたことには感謝しています。

Q:高田馬場に店を構えたきっかけは何でしょうか。

A:高田馬場に来たのはたまたまです。店を始めようとしていろいろなところを探していましたが、人通りが多くミャンマーの方が多いのでこの街を選びました。店は2013年7月21日から営業を始めています。居酒屋や和食屋などで働いた経験を活かし日本人も食べられる油ビーフンを一緒に売ろうと思ったこと、また、油そば屋がここら辺にあまりないことから油そば専門店を開こうと思いました。

軍事クーデターについて

Q:今年2月に起きたクーデターについてどうお考えですか。

A:もう二度と軍事政権にはならないと思っていたのでかなりショックでしたね。

Q:日本にいる方はどのような抗議活動を行っているのでしょうか。

A:現地の反軍事政権派の方のための武器やマラリアの薬代、生活費等に用いるため募金などを行っています。また、日本人にミャンマーの現状について知ってもらうため、国に訴えるため、そして日本にいるミャンマー人にアピールするために大使館などでデモを行っていますね。ただコロナウイルスも広がっているので事前に警察に許可を取ったり、離れて歩いたり、感染防止対策のアナウンスを行ったりするなどの工夫をしています。店をやっているので空いている時間に活動しています。軍事政権が倒れるまでは色々な活動をやらなければいけませんね。加えて軍事政権に資金を流さないために店でのミャンマービールの提供を一時的にやめさせていただきました。ミャンマービールが軍事政権のビジネスでなくなったら復活させます。活動により熱心なのは若者の方で、私たちは彼らのために後ろからサポートしている感じですね。自分たちができることをやっています。

Q:ミャンマーでは、この問題を解決するためには武力闘争しかないという考えのもと少数民族の戦闘組織に加入している若者が相次いでいると聞きました。アウンさんはこれに関してどのように思われますか。

A:今、民主派の人々の間には負けたらすべてが終わってしまうという恐怖があります。もし負けてしまったら自分たちだけではなく、子供たちに至るまで軍事政権下に置かれてしまうというでしょう。ですから今勝つためには何をやっても正しいとされていますね。デモを行うのも、銃を持って戦うのも正しいと。

Q:平和的な解決は無理だとお考えですか。

A:そうですね、無理だとは思います。捕まって殺されるだけですからデモも意味がありません。相手が武器を持っているのでこちらも武器を持って戦うしかありません。他の方法はないんですよ。自分たちの国の問題ですから、他国にお願いしてもなかなか協力してもらえませんから。

ミャンマーの今

Q:ミャンマーにいらっしゃるご家族、ご友人との連絡はどのようにされているのでしょうか。

A:母は存命で74,5歳ですが、父は亡くなってしまいました。妹は3人いますが1人はミャンマーにいて、1人はシンガポール、もう1人がアメリカに住んでいます。もう30年間くらい兄弟4人が揃うことはなかったですね。連絡はフェイスブックで行っています。フェイスブックは情報を集めるときにも活用しています。

Q:アウンさん自身が帰国することはありましたか。

A:スー・チー氏がトップに立った頃、難民の帰国が許可されるという法律ができましたので2015年に帰国できました。長らくミャンマーに帰ることができなかったのでミャンマー国籍を失っており、大使館でビザを申請しなければなりませんでした。ただ今は帰ったら危ないでしょうね。

Q:ミャンマーに住んでいらっしゃる方々の現在の生活の様子について教えてください。

A:状況は1988年の時よりも悪いですね。政治の影響だけでなく、新型コロナウイルスによる死者が沢山います。医者はストライキで病院にいませんし、残っている看護師の中でも罹患している人は多いようです。治療と言っても薬もなくベッドに寝かせるだけですし、軍のコントロールにより医療用の酸素不足に陥っています。高齢で糖尿病などを患っている母のことは心配です。家族は外になるべく出ないようにしていますし、買い物も配達で済ませているようです。配達員とも接触しないようにしているみたいですね。ただ、いつ感染するかもわからないので覚悟はしています。又、法律が効力を持たず、警察と軍はつながっているわけですから何かあっても通報できません。自分の身は自分で守らなければならないんです。日本では考えられないでしょう。このようなことまでは日本で報道されませんしね。

Q:ミャンマー国内の経済状況はどうなっているのでしょうか。

A:国民は仕事ができないうえに銀行もストライキしてしまっているので経済が回らなくなっています。みんなで助け合いながら凌いでいるようです。募金も使われているようです。

今後について

Q:今後の活動について教えてください

A:問題が長引いていけば内戦になるでしょう。しかし、自分が生き残るためにまずはコロナウイルスをどうにかしなければなりませんね。死んだら終わりですから。感染しないように皆気を付けています。今は各々が自分が何をできるのかを考えて行動しています。

Q:アウンさんにとってスー・チー氏はどのような存在ですか。

A:国民のために頑張っているスー・チー氏は神様みたいなものです。軍事政権打倒後のリーダーとしては次世代の人々が国を守ってくれると期待しています。

Q:軍事政権を倒した後のことはどのように考えていますか。

A:軍事政権が倒れさえすれば順調にいくと思います。4,5年で元の状態に戻るでしょう。ただ、海外の会社が戻ってきてくれるのかは不安が残ります。もしミャンマーが民主化したら韓国のように徴兵制を取り入れるべきだと思います。徴兵制を用いればみんなが軍隊についての知識を持つことができ、軍事政権が権力を握ることもなくなるのではないでしょうか。

今回は「油そば力」の店主、アウン・アウン・ライン氏へのインタビューを掲載させていただきました。

次回は「スィウミャンマー」の店主、タン・スエ氏へのインタビューをお届けします。