—高田馬場の視覚障害者支援—
早稲田大学のお膝元、高田馬場。この街では数多くの視覚障害者支援団体が活動しています。「福祉の現場から」第3回目、第4回目では西早稲田に拠点を構える東京ヘレン・ケラー協会様への取材の様子を公開いたします。第3回目となる今回は東京ヘレン・ケラー協会 ヘレン・ケラー学院でお仕事をされている藤平さん、ヘレン・ケラー治療院でお仕事をされている三浦さんへの取材の様子をお伝えします。
※この記事は2022年12月19日時点のものです。
ヘレン・ケラー学院について
- この仕事を始められた経緯を教えてください
私は日本社会事業大学という大学で児童心理について学んでおりました。しかし、いざ就職活動をしてみると近隣の児童福祉関連施設は職員の募集をしておらず、仕方なしに地元の市役所での就職を考えていました。そんな時、大学の学生課から東京ヘレン・ケラー協会で新規の職員を募集しているから受けて見たらどうかと連絡がありました。私の専攻は児童福祉なので障害者の方の支援ができるとは思えませんでしたし、東京ヘレン・ケラー協会のことも全く知らなかったので初めはここに就職するつもりはありませんでしたが、入社試験後学院長から何度かお誘いを受け入社を決意しました。
- 仕事をしていて大変だと思ったことはなんですか
ちょっとした見え方が違うために伝え方で苦労することがあります。例えば話しかけられても相手が誰か分からずに困ってしまう学生さんがいます。声を掛ける際に「藤平です」とワンクッション入れる、などといった気遣いは意外と意識していないとできません。そういったことが大変ですね。また、自分では視覚障害者の方の不自由をなくそうと思い、寄り添ったつもりでいても拒絶されてしまうことがあるのが難しいなといつも感じております。来た時ばかりの時は「見えているやつには見えない気持ちなんか分からない」「一回見えなくなってみろよ」などと利用者さんから怒鳴られることもありました。
- この仕事で課題がありましたら教えてください
直近の話で言いますとコロナ禍の中で授業を展開するのが結構大変です。全員が電子機器を使えるわけではないので、先生に読んでいただいた教材をCDに音声として起こして学生が聞けるようにするなど工夫しています。
- 政府や政策に対してご意見があればお聞かせください
重要な文書を視覚に障害のある方にも分かるようにしてほしいです。晴眼者であれば封筒などに書かれている「重要」といった文字を読んでどういった書類なのかを認識することができますが、視覚障害者にはそれができません。私も学生さんから「ワクチン券が送られてきたはずだがどれなのかが分からないから郵便物の中から探してほしい」と頼まれた経験があります。東京ヘレン・ケラー協会では職員が代読の資格を持っているので対応できますが、どこにも所属していない方は障害年金通知などが来ていたとしても分からないですよね。一人一人に対応するのは難しいにしても、少なくともこれが重要なのかそうでないのかが分かる郵便物にしてほしいなと思います。
- 晴眼者に知ってほしい事はありますか
ここ最近はドラマなどの影響で困っている視覚障害の方に声を掛ける方が意外といらっしゃいます。しかし、介助を申し出た人にいきなり白杖をつかまれたり、歩行介助中ペースを合わせてくれなかったりといったことで逆に恐怖心を感じてしまったという方の話も聞きます。困っている人に手を差し伸べるのは悪いことだとは思いません。ただ、もし叶うのであれば技術をきちんと学んでみてほしいですね。例えば駅であれば駅員さんが慣れていますし、難しければ介助が可能な方に任せるというのもいいのではないかと思います。
ヘレン・ケラー治療院について
- この仕事を始められた経緯を教えてください
私は少し前に新しく東京ヘレン・ケラー協会に入職しました。ただ福祉に携わるのは初めてではなく、元々は福祉施設の立ち上げの仕事をしていました。50代半過ぎになってヘレン・ケラー治療院の開所に加わったのですが、視覚障害者に特化した事業というのは少なく、今までにない新しい福祉施設に興味を持ちここで働こうと決意しました。
- この仕事に就いたことで視覚障害者への認識は変わりましたか
変わりましたね。以前から視覚障害の方や重複障害の方と接する機会はありましたが、視覚障害に特化した施設は初めてでしたのでここに来る前の視覚障害者の方に対する認識は皆さんとほぼ同じだったと思います。仕事を始めてから一番驚いたのは想像以上に自立されているというところです。人間は目からの情報量が一番大きいじゃないですか。それが閉ざされているということで支援を手厚くしなければならないとか、先回りして手助けしなければならないとか考えてしまうのですが、実際は皆さん何でもできるのですよ。耳からの情報だったり、点字だったりを使って予想以上に自立されているのですよね。
- この仕事の課題は何だと思いますか
コロナ禍というのもあるのですが、視覚障害者っていうのは少しハンデが大きいように思われてしまうので就労の場が中々ありません。その就労の場を作っていくということ、就労の場を探すことが課題だと思います。治療院は就労のために訓練する場所であると同時に工賃が支払われる実践の場でもあります。そして利用者さんは最終的には自立して就職や独立をすることを目指しています。就労の場を開拓したり、作って行ったりすることは課題でありこの仕事のテーマでもあるでしょう。
- 政府や政策に対してご意見があればお聞かせください
職員の給料について。基本的に治療院自体の運営は訓練等給付費という自治体から支給されるお金で賄われており、スタッフの給料もそこから出ています。政府機関ではここ最近福祉職の賃金を上げようという動きがあり、確かに色々やっていただいているとは思うのですが、まだ少ない。若い人が福祉業界に入って来ないのは収入が心配だからというのもあるのではないかと感じます。介護事業も含めると恐らく今後福祉業界では更に人的パワーが必要になってくるでしょう。やっぱり自分たちの生活が安定しないと良い支援、良い福祉ができるわけありませんから、金銭面での不安を払拭してほしいと思います。
加えて、力を入れる支援に偏りがないようにしていただきたい。福祉関係だと今は子供や発達障害児者、医療的ケア児が注目されておりサポートも手厚くなっています。ただ、どこかの支援が手厚いと、その分どこかが割を食ってしまうことがあるかもしれません。視覚障害者は絶対数が多くはないのですが、それが理由で施策が後回しになるようなことがないよう配慮していただけたらと思います。まずは当事者のお話を聞いて頂きたいですね。子供へ投資するのは当然だとは思いますが、同時に忘れられる人がいないようにしていただければ嬉しいです。
- 晴眼者に知ってほしいことはありますか
情報が広まりきっちりとした理解が進めば自然と視覚障害者の方の力になっていただけるようになるのではないかと思います。この地域は視覚障害者施設がたくさんあり、知識のある人が多くいらっしゃいます。視覚障害者の方にとっては、他所と比較すればですが、環境面では進んでいるのではないでしょうか。ただこれは長い年月を経てできたもの。まずは何が困るかなどといった身近なところから、目配り気配りを始めていただければ嬉しいです。
取材に協力してくださったヘレン・ケラー学院、ヘレン・ケラー治療院の皆様、本当にありがとうございました。
第3回目の記事は以上となります。次回は東京ヘレン・ケラー協会の点字出版所でのインタビューをお届けします。